足音が近づいてくる。
次第に声もはっきりと聞こえるようになり、恐怖が具現化して近づいてきているのを感じる。

涙が自然と溢れた。
もうこれがなんの涙だか自分でもわからない。

力の抜けていく体から、ぼくの腕の中から、月子ちゃんが這い出ようとしている。
それを止める力も今のぼくにはない。

……神様。
せめてぼくに、立ち向かう勇気があったなら…ここからきみを連れ出す、力があったなら。

…なにか、変わった…?
きみを、救えた…?

「………っ」

こんな、ぼくに。


一瞬の違和感に、お互い同時に顔を上げる。
ぶつかる視線。
互いの瞳に映る、自分の顔。

「…うそ…」

今度は月子ちゃんの目から、涙が溢れる。
もちろん泣いているのは、ぼくだけだ。

「……」
「…う、うう、ぼく、そんなつもりじゃ…」

もう何度目だろう。驚きはしない。

ただそれよりもっとはっきり感じるのは情けない気持ち。恥ずかしい気持ち。

ぼくは月子ちゃんに、月子ちゃんはぼくになっていた。