思わず泣き出したぼくに、月子ちゃんが少し困惑しながらそっと指先で涙を拭ってくれた。

嗚咽を必死に抑える。
携帯に夢中の堀越恭子達には気付かれてないようだ。

「あたしトイレ」
「あ、あたしもー」

「なにそれ、あたしもけっこうガマンしてたんですけど」
「ケン達には場所言ってあるんでしょ? 待ってなくても別によくない?」

「カバン置いてくし、場所聞いたらすぐ着くって言ってたからいーよ」
「その間に山田いなくなっちゃわない?」

「平気だって、ほらそれ、山田のカバンっしょ? きっと戻ってくんだって」

納得したのか、堀越恭子の後を他のふたりも続き保健室から出て行ってしまった。
それから再び静まりかえった室内には、やかんの蒸気が吹き出す音だけが虚しく響く。
そろそろお湯がなくなるのかもしれない。
渇いた音が混ざっていた。

「…もう、いいの…」

月子ちゃんが腕の中で、小さく零した。
ぼくはふるふると首を振った。
溢れた涙があたりに飛び散る。

触れた月子ちゃんの指先はやっぱり冷たい。

「流石にそんなカンタンに、死んだりしないし、人の体って、案外丈夫なのよ…あなたみたいに死ぬ気もないから、ちょっとくらい死にそうになったって、平気。言ったでしょう、痛みなんて、慣れれば痛くなくなるの…人の体って、そうできてるのよ」

──嘘だ。

もう月子ちゃんの「平気」は信じない。
人がどんなに弱くてちっぽけな存在か、ぼくは誰よりもよくそれを知っているから。