ガラガラガラ――
保健室のドアが開けられた音が、静かな保健室に響く。
室内にはやかんから漏れる蒸気の音だけ。
そこにドカドカと足音が乱暴に侵入してくる。

「…センセー居ないんだぁ」
「今職員会議だって、ドアのプレートに書いてあった」

「へぇ、あ、ソコじゃね? カーテンひいてあるトコ」

どくどくと、心臓が鳴る。
足音がこちらに、近づいてくる。
あがる呼吸を抑えるのに必死で、心臓の音が聞こえてしまわないか不安で堪らない。

シャッ、とカーテンレールが勢いよくひかれた。
ぼくぎゅ、と目を瞑り、腕の中の月子ちゃんを強く抱きしめた。

「……あれ?」

空っぽのベッドを見下ろす声が、ぼく達にもじわりと落ちてくる。
おそるおそる目を開けて視線を向けると、すぐ目の前に履き潰された派手な上履きが見えた。
その後ろに他のふたりの上履きも加わる。
やっぱり踵は潰れていて、原型を留めていない。

「…居ないじゃん」
「別の保健室だったんじゃないの?」

「でも、クラスの奴らはココだって言ってたんだけど」
「逃げたとか?」

「まさかぁ、だってアイツ、逃げたことないじゃん」

ギシ、とベッドが大きく軋んだ音。
おそらく堀越恭子が腰を下ろしたのだろう。

ぼくは一瞬息を止める。
心臓も止まった気がした。

「…アイツ、どこ行ったわけ?」

空っぽのベッドのその下に、ぼくは月子ちゃんを抱いたまま隠れていた。