月子ちゃんにかかっていた白いシーツごと、ぼくは月子ちゃんの体を抱きかかえた。
月子ちゃんは小さくて軽くて、ひ弱なぼくでもカンタンに抱き上げることができた。
軽いけどこの重みが、やっと感じた温もりが、生きている証だ。
堀越恭子達の声は、もうすぐそこまで近づいている。
品のない笑い声はそれはそれは楽しそうだ。
彼女達にとっての遊び、ただの暇つぶし。
月子ちゃんを、傷つけることが。
だけどそんなの、やっぱりどう考えたっておかしいんだ。
月子ちゃんだって、そう言ってたじゃないか。
ぼくに言ったのは、月子ちゃんだ。
もっと周りのことを考えろ、って。
生きてるうちに、失くさないうちに、もっとちゃんと、大事にしろって。
「ちょ、なに、す…っ」
思わぬ事態に月子ちゃんが腕の中で小さく暴れた。
だけど体だけは男のぼくが押さえ込むと、弱っているせいもあってか、すぐに抵抗はなくなった。
窓の鍵はまだ開いている。
空きベッドをひとつ挟んですぐそこが窓だ。
外に逃げた方が良いだろうか。
でもこの距離じゃ、逃げたこともすぐにバレるだろう。
人数的にも追ってこられたら不利な気がする。
堀越恭子の影に桜塚の顔がちらついた。
こわい、だけど、今は。
視線を辺りに巡らせる。
せめてどこか、隠れられそうな場所。
さほど広くもなく見通しの良い保健室に、そんな都合の良い場所は見当たらない。
焦って息が上がる。
月子ちゃんが腕の中からぼくを見上げて口にした。
「いいから、はやく…っ、あなただけでも逃げて…!」
それだけはぜったいに、イヤだ。