サーと、自分の顔から血の気がひいていくのがわかる。
体中から熱が逃げていく。

まるで悪魔がこっちに向かってくるみたいだ。
実際それに近い。
あっちには悪意しかないのだから。

そろりと月子ちゃんに視線を戻すと、月子ちゃんはいたって無表情のまま。
わずかに上がった息と青い顔のままだった。

怯える気力もないのか、それともこの状況は月子ちゃんにとって、それほどまでの状況ではないというのか。
ぼくですらこんな、恐怖しているのに。

「つ、月子ちゃん、に、逃げたほうが…」

怯えた声で、ぼくは咄嗟に月子ちゃんの手をとった。
月子ちゃんの手はひやりと冷たく、まるで陶器の人形のようだ。
その顔色も、表情も。まるで何も、感じていない。

僅かに口が動く。
その目はぼくを見ていない。
何も、そう何も。

「…どうして。逃げたってムダよ。次会った時に倍以上殴られるだけ。だったら今の内に殴られておいた方が、楽に済む…それに、今ならどんなに殴られたって、平気だから。だから、いいのよ」

どうして、月子ちゃんは。
そんな哀しいことを平然と言うのだろう。