「月子ちゃんは…1回も学校休んだこと、無いんだね…」
「休む理由もとくに無いもの」

「エライ、なぁ…ぼくは…学校に来る理由が、見当たらないんだ…」

あたしの体を更に小さく曲げながら、彼はか細く呟いた。
ぎゅう、と小さく。
壁に呑み込まれてしまいそうなくらい。

だったらなんでこの学校に入学したのだろう。
そう思ったけど口にはしない。

この学校は割と有名な私立校で、あたしは特待生として入学したけれど、学校の殆どは富裕層の家の子達ばかりだ。
お金があれば入れるし、進級も卒業もできる。

暇とお金を持て余している、そんな生徒ばかりだと思う。
少なくともあたしから見ればだけど。

「じゃあ今日はなんでここに居たの」
「それ、は…」

彼は言い難そうに口ごもり、更に体を縮める。
なんとなく察しはついていたので言及はせずそれ以上の言葉も発しなかった。
彼がここに居る理由なんて、実際のところそこまで興味はないのだから。

「…つ、月子ちゃんは…、どうして、屋上に…?」

たっぷりと間を置いておきながら質問には答えず矛先をあたしに変えてきた彼は、おそるおそるそう口にした。

質問しているくせにこっちを全く見なくて、失礼なひとだなと思った。
それでもやっぱりどうでも良い気がして、質問の答えだけを簡潔に口にする。

「暇つぶしの相手をさせられていただけよ」

彼の不登校の原因とあたしをいじめている奴らは、おそらく同じなんだろうと思った。