幸いにも目当ての保健室は1階で、窓側から回り込めれば中の様子を覗ける。
植え込みの向こうのグラウンドは今の時間は使われていないらしく、見渡す限り人影はない。

良かった、運がいい。流石に授業中に外から保健室を覗く人物なんて不審過ぎる。誰にも見られないにこしたことはない。

ぼくはそろりと、窓から室内を覗き込む。カーテンはひかれておらず、室内の様子が一望できた。
保険医は今居ないようで、室内はガランとしている。
視線を彷徨わせると、ひとつだけカーテンのひかれたベッドがあった。

月子ちゃん、だろうか。でも確信が持てない。
少し考えた末、ポケットから携帯を取り出し緊張しながら番号を発信する。
わずかばかりの時間差を伴って、ブー、と携帯のバイブ音が室内に響いた。
視線の先のベッドの方向から。

「……っ」

月子ちゃんだ。
本当にここに、居たんだ。

そう確信した瞬間ぼくは、理由のわからない涙が滲んだ。
呆れた顔して「ばかね」っていう月子ちゃんの顔が浮かんで、だけどすぐに流れて消えた。