生徒達が往来する昼休みにはとても出歩けなかった。
それだけはやっぱり、どうしても。

ぼくは申し訳ない気持ちを抱えながらも、階段の踊り場で午後の始業のチャイムを聞き届け、立ち上がる。
昼休みとは一転、静けさに包まれる校舎内。
ここが教室がある校舎とは別の校舎だからというのも、もちろんあるのだろうけれど。

ゆっくりと足音を消しながら階段を下り、鍵のかかっていない扉から外に出る。
校舎から出ると、冷たい空気がかじかむ指先に絡みついた。
パーカーのポケットに両手を突っ込んで息を吐く。
少しだけメガネのレンズが曇ったけれど、すぐに溶けた。

気温の上昇した昼間の空気はなんとなく柔らかく感じる。
それでも目深にフードを被り、マフラーをぐるぐるに巻く。
寒いからじゃなくて、だけどある種の防御だ。自分にとっての。

相変わらず騒ぐ心臓を押さえつけながら、携帯電話を取り出し、再度場所を確認。
それから走り出した。