電話が通じたことへの安堵感で、ぼくはすっかり油断していた。
電話の相手が月子ちゃんだと疑わなかった。
だけど電話に出たのは、月子ちゃんじゃなかった。
『あの、もしかして山田さんの、ご家族の方ですか…? 山田さん、教室で倒れてしまって、今保健室で寝ています…お迎えに、来てあげてください…』
言うだけ言って、電話はすぐに切れてしまった。
聞いたことあるような、初めて聞くような、か細い女の子の声。
ぼくは最初の一言以外なにも言葉を発せられず、通話の切れた携帯を耳にあてたまま、呆然とした気持ちで目の前の階段を見つめる。
頭の中で必死に状況を整理してみる。
えっと、今月子ちゃんの携帯に出たのは月子ちゃんじゃなくて、それは月子ちゃんが倒れてしまったからで…。
信じられない。
あの月子ちゃんが、倒れるなんて。
だって月子ちゃんはぼくなんかよりぜんぜん強くて、今までだって何度だってぼくが月子ちゃんだったらすぐに泣きべそかいて投げ出しているようなことだって、月子ちゃんはなんでもないような顔して、「平気」って。
月子ちゃんがそう言うのなら、本当にそうなんだろうって。
月子ちゃんはぼくと違ってそんなカンタンには、折れたりなんかしないと。
そう、思っていたぼくはやっぱり──
バカだったんだ。