朝、朔夜くんからぼくの携帯に電話があった後。
ものすごい葛藤とぼくは戦うことになった。
思い悩むことは今までたくさんあったけれど、今回は、違う。
例えば食事の際、今日はどんな嘘を捻出しなければならないんだろうというあの憂鬱な気持ち。
例えば、桜塚からの呼び出しメールを受けた時の、行かなきゃダメなんだろうか、どうしようというあの脅迫的な気持ち。
いろんな絶望が混ざり合った時の、カッターに手を伸ばす、あの絶望的な気持ち。
それはぼくにとって避けようのない葛藤だった。
──でも。でも今回は違う。
『月子がムリしないよう、見ててやってくれませんか?』
朔夜くんにそう言われた時、チキンなぼくは電話口ではつい「わかった」と返事してしまった。後先考えずに約束してしまったのだ。
だけど実際は月子ちゃんの様子を見れなかったとしたって、約束を守れなかったとしたって、朔夜くんにバレるわけじゃない。
多分朔夜くんから月子ちゃんにそれを確認することはないだろうし、月子ちゃんからわざわざぼくがひきこもりだってことを言うこともないだろう、きっと。
避けようと思えば避けれるし、逃げようと思えば逃げてしまえる。
だから、「うん」て言っちゃったけど、約束しちゃったけど、このまま何もなかったことにしよう。
朔夜くんからの電話も、月子ちゃんが具合悪いってことも、約束も。何もなかったことにしよう。
それなら得意だから。