冬の冷たい空気が肌を刺す。
思わずぶる、と身震い。

寒い。ガチで寒い。コートかジャケットを着てくるべきだった。
外に出ないし自分から出る気もなかったので、装備を完全に間違えた。
ここ数年のひきこもりの結果、11月という時期の認識が甘かったことを痛感する。

薄手のパーカーに学ランを羽織り、マフラーを巻いただけという軽装。
実際にここまで来るのに周りの人達との防寒のギャップにいたたまれない思いをしながら来た。
伊達メガネの度なしのレンズが、自分の吐く息で曇る。視界は相変わらず見通し悪い。

ああ、ぼく、病み上がりなのに。また風邪がぶり返したらどうしよう。
でも今更だ。もう目的地に、着いてしまったのだから。

唯一ぼくがこの敷地内で馴染みのある場所。旧校舎側からまわって屋上へと続く階段の踊り場。
正門や昇降口を通らずとも、入り込める場所で、一般の生徒は滅多に立ち入らない場所だ。

ぼくと月子ちゃんが初めて出会った場所。
なんだか感慨深い気持ちで壁にもたれかかる。ひやりと冷たい感触に体も思考も一瞬で凍る。

ああ、どうして…どうして、こんなことに。

再び体がふるえる。
今度は寒さのせいじゃなかった。

ぼくは今、学校に居る。
ひとりで。