熱に浮かされた思考が、ぐちゃぐちゃと記憶をかきまわす。
思い出さなくていいことまで、忘れていたいことでさえ、勝手に引っ張り出して。
落ちる瞼を止められない。
瞼の向こうには、12才のあたしがいた。
あの日も確か、冬だった。
『…あたし…、良い学校に行って、たくさん勉強して、医大に行きたい…医者
に、なりたいの…っ』
あの日…私立の中学校の受験志願を、両親に打ち明けた。
うちが貧乏なのはわかっていた。
さんざん悩んだけれど、諦めきれなかった。
一生に一度の、ワガママのつもりだった。
お父さんの病気のことは、家族みんな、知っていた。
通院も薬も一生涯で、あたし達も何度か病院に付き添ったことはあったし、毎食後の薬も日常の一部だった。
お父さんは傍から見てとても病気には見えなかったし、教師の仕事は続けていたし、笑っていたし、元気だった。
死ぬだなんてそんなこと、考えられなかった。考えるわけなかった。
だけどそれでも、病院に通い続ける父を見て、笑顔で支え続ける母を見て、顔には出さずとも心配する弟達を見て。
力になりたいと、何かしたいと思ったんだ。