教室では朝のHRが始まっている。
担当教諭の声はよく聞こえない。いつもあまり聞いてはいないけれど。

ふと、手元に1枚の紙があった。
何時の間にあったのだろう。全く気がつかなかった。いよいよ本格的に意識がまずいかもしれない。

頭に手をあて溜め息を吐きながら、紙を手にとる。視力が悪い上に現在は焦点まで定まらず、何の紙か全くわからなかった。
ぼやける視界に近づけてやっと、なんとかその紙に書かれた文字を読み取ることができた。

「……進路調査票…」

冬が終わり春がくれば、あたしは3年、世に言う受験生だ。
でもあたしは、就職するって決めていた。
その為にはせめて、実績が必要だった。学校行事の委員だとか役員だとか社会活動の貢献だとか。

奨学金でこの学校に通わせてもらってはいるけれど、今後試験でまともな点数を残せる保証もない。
だからせめて。皆勤ぐらいはしなければ。

「三者面談もありますので、親御さんとよく進路のことを話し合っておくように───」

教室内はにわかにざわついて、予鈴のチャイムと共に教師は教室を後にする。
1限目は移動教室だ。移動しなければ。

頭ではわかっていた。でも。

どうしてだろう立ち上がれなかった。