「え…?」

手…? 手っていうのは、つまりあたしの手のことだろうか。
反射的に文庫本を持つ手に視線を落とす。目の前の星野さんもそれを追った。

右手には少しいびつに巻かれた包帯。
朝巻き直した時、やっぱりお兄さんが巻いてくれたようには上手くできなくて、こんな不恰好になってしまったのだ。

包帯の下の傷は、昨日、おそらく彼がしたケガ。このケガと星野さんと、何か関係あるのだろうか。
いや、そんなことは今はもう、どうでもいい。とにかく今大事なのは。

「あの、わたし…っ」
「…ま、待って…!」

まだ尚何か続けようとした彼女を、思わず右手で制す。
文庫本が投げ出され、わずかに腰が浮き、目線が近くなる。
ガタガタの包帯が晒されて、なんだか情けなかった。

「あたし、に…話しかけないで…」

この状況が、おかしいってこと。いつもの日常ではないってこと。それだけは、マズいってこと。

こんなところを、あいつらに見られたりしたら。
彼女まで、巻き込んでしまう。
それだけは避けなきゃいけない。

これはあたしの、あたしだけの問題なのだから。