最初、自分が呼ばれているなんて、気付かなかった。
話しかけられているなんて、微塵も思わなかったから。
だから返事も反応も、できるわけなくて。

「あの、や、山田さん……っ」

何度目かにその声が耳に届いた時、やっとそれが自分のことなんだと気付いた。

「…は、い…」

驚きのままゆるりと顔を上げると、目の前には女の子が居た。どこか怯えた様子で、だけどその目にはしっかりとあたしを映している。

えーっと、誰だっけ。あまり関与しないものだから、クラスメイトの顔と名前を殆ど認識できていない。
だけど彼女には見覚えがある気がする。そう、確か…

「あの、わたし、星野、です…同じクラスの…」

そう、星野さん。確か1年の時も同じクラスだった。話したことは殆どないけれど。

「あ、あの、手、大丈夫だった…?」