なんとか教室まで辿り着いたものの、体が重い。息があがる。
いつもよりはやく家を出てきて正解だった。途中何度か自転車のまま転びそうになったけれど。
教室内にはまだ人もまばらだった。
よろよろといつもの席につく。ひとまずはこれで一息つける。少しだけほっとした。
力を振り絞って重たいカバンを机の脇にかけた、その時。
ふと視線を感じた。ほんの一瞬だけ。
でもその瞬後には、またいつもと変わらない日常の教室に戻っていた。なんだろうとは思ったけれど、あまり気にせず席に着く。
それから読みかけのカバーのかかった文庫本を取り出して、ぱらりとめくった。
正直内容はまったく頭に入ってこない。とりあえずいつものポーズだけ。
教室という場所の中で、自分という存在を切り取るための。
自分も相手も、一切立ち入らない。関わらない。それがいつもと変わらない、あたしの日常だった。
だから、すぐ目の前に人が居たことも、その人物があたしを見ていることも、気付かなくて。
「……あ、の…山田、さん…」
いつもと変わらない日常の、はずだったんだ。