◇ ◆ ◇
――ピピピピピピピピ
重い意識の中に容赦なく介入してくるのは、目覚ましの音。
随分と馴染んだその音は、いつもの朝が始まる合図。
染み付いた習慣があたしの瞼をこじ開ける。
主人になんの断りもなく、だ。
「…そっか、今日、補講だ…」
ぽつりとつぶやきながら、もはや条件反射で目覚まし時計に手を伸ばしアラームを止める。
なんだかやけに違和感がある気がしたけれど、本来なら今日は休みなんだ。
そう認識するとすこぶる体が重たい気がする。
やる気が出ない。
霞む視界に映るのは見慣れた天井。
カーテンの隙間から覗く窓の外は未だ薄暗い。
それでものそりと上半身を起こし、寝ぼけ眼に映ったソレに、思考が停止した。
「────き…ッ!」
理解し難い状況に思わず叫びそうになり、復旧した理性がそれをなんとか制する。
ほぼ同時に動いた両手のおかげで早朝から迷惑な悲鳴を上げることは免れた。
勢いがあり過ぎて自分の顔が痛いけれど。
こちらの荒い動悸と呼吸とは裏腹に、呑気な寝息が聞こえている。
すぐそこで。
「──月子…?」
「…ッ!」
すぐ脇にある障子の向こうから聞こえてきた声に、慌ててふとんをソレにかぶせた。
そのふとんの下からアヒルのようなうめき声が小さく聞こえ、更に毛布で押さえ込む。
それから形だけの平静を装い、呼ばれた声に応えた。