「…君は、陽太がどうしてその部屋に居るか、知っているか?」
「……いいえ」
そういえば、ここで。
この人が彼に向かって投げかけた言葉を思い出す。
中身があたしの、彼に。
『お前はいつまで、そこに居るつもりなんだ』
あの時は単純に“さっさと出て行け”と言っているように聞こえた。
だけど今思うと、このお兄さんがそんなことを言うとは思えなかった。
彼があの部屋に居る理由。
そんなの知らないし、興味もない。
あたしには、関係のないことだから。
お兄さんが僅かに視線を上げ、すぐそこ、あたしの後ろにある部屋のドアを見つめる。
「…そこは、死んだ日向が使っていた部屋だ。陽太はその部屋で日向に成ろうとしてなれず、それからその部屋は、陽太の死を待つ部屋になった。陽太はきっと、17の誕生日を迎える前に、死ぬ気なんだろう。…手首の傷を見て、確信した。自分が16で奪ったと思っている、日向と同じ年で」
あたしには関係ない。そんな話をされても困る。
だってあたしには、何もできないのだから。
「君が本当に陽太の傍に居てくれるというのなら。陽太をその部屋から、連れ出してやってくれ」