今度は素直に差し出したあたしの右手を、お兄さんの大きな右手が受け取る。
前はそれどころじゃなくて気付かなかったけれど、お兄さんも左利きだった。
そんなどうでもいいことばかりが目についた。

お兄さんは傷口に優しく触れ、救急箱の中をがさがさと漁り、取り出した薬をあたしの右手に丁寧に塗る。
それからガーゼを乗せ白い包帯をくるくると巻いてくれた。

その器用さと手つきに感心してしまう。
あたしにはムリだ。

図らずとも右手の包帯が、おそろいになった。
彼の右手と。

「…職業病だ」
「え…」

「ケガや傷口や痛そうだなと思うものを見ると、ほっとけない」
「…それは…大変、ですね」

ケガや傷口なんて、きっとそこら中に溢れてる。
他人のそんなものにまでいちいち構っていたらキリがない。

優しいひとなんだなと思う。
口調も顔もこわいけど。

彼のことを一番心配してる。
それだけは、わかった。

「…それに、痛くないという人間が、一番信用できない」
「……」

それは誰のことだろう。
もしかして、自分のことだろうか。
どことなくうしろめたさから、黙ってしまう。

「…陽太も、そうだった。大丈夫だと言い続けて結局…大丈夫じゃ、なくなった」