人のこと言えないけれど、彼もタイミングが悪いなと思う。いろいろと。
それと同時にやっぱり少しだけ申し訳なくも思う。
痛いのが嫌いな彼にばかり、痛い思いをさせて。
でもあたしは、こんな傷はしょっちゅうだった。
慣れなのだ。ほとんど痛みは感じない。
さっきも問題なくスプーンを持てたし。
わざわざ手当てしてもらうほどじゃない。
「ありがとうございます、お気持ちだけ…」
「子供が遠慮するんじゃない。いいから右手を出しなさい」
ぴしゃりと。
お兄さんはあたしをまっすぐ見て言った。
そんな風に誰かに言われたのは、初めてで。
そういえばあたしは長女だから、昔は“お兄ちゃん”という存在に憧れてたこともあったっけなんて。
「……は、い…」
そんなことをぼんやりと、思い出していた。