靴が彼の部屋にあるからと、あたしはダイニングでお母さんに挨拶し、彼の部屋まではお兄さんが送ってくれた。
お兄さんとふたりは気まずかったけれど仕方ない。
赤の他人を家内でひとりうろつかせる方が危ないに決まってる。
むしろ玄関から出入りしろとあたしなら怒ってる。
ふとお兄さんが、彼の部屋のドアの前で立ち止まった。
あたしもつられて足を止める。
「…少し、待っていろ」
「は、い…」
そう言われたら従わないわけにはいかない。
なんだろうと思いながら視線で背中を追うと、お兄さんは廊下の先にあった部屋に入り、それからすぐに戻ってきた。
手には救急箱を持って。
見覚えがある。
以前、彼の手首の包帯を巻いてもらった時に見たんだ、確か。
「…手、見せてみろ」
「え、あ、あの、痛くないので、平気です」
流石に気がひけて、右手を後ろに引く。
そういえば元に戻った時には既に、右手をケガしていた。
膝小僧も青くなっている。
彼に聞かずとも、学校での出来事が容易に想像できた。