「久しぶりに作ったから、美味しくできてるかわからないんだけど…」

そう言いながら彼のお母さんが、冷蔵庫から取り出したものをあたしの目の前に置く。
ソーサーにはデザートスプーンも添えて。

目の前に置かれたものに、あたしは思わず目を丸くした。

「………、」
「あの子がね、熱でうなされながら、食べたいって言ってて…あの子のワガママなんて久しぶりだから、ついはりきって作り過ぎちゃったの」

目の前には、綺麗な容器に入れられたプリンがあった。

あたしは今彼がここに居ないことに心底感謝した。
あたしが寝ぼけて言ったことを、彼にだけは知られたくないと思った。

彼にだけは、晒したくなかった。
ぜったいに。

それから少しだけ、哀しかった。
彼がプリンを食べられないことを、あたしは知っていたから。