「あなた、家は近いの?」
「え、あ、ううん…ここからは電車で10分くらいで…最寄りの駅からは近い、かな…」
「そう…あたしは自転車で通ってるけど、じゃあ、終電までは待ってみる? それとも、朝まで粘る?」
「あ、朝までここに居るってこと…?!」
「まぁひとつの選択肢としてはだけど…どっちにしろこのままじゃお互い、家に帰れないでしょう」
「…ッ、朝、は…ムリ…昼間、ここに居るのは、絶対にムリ…!」
確かにこのままじゃ家になんて帰れない。それぞれ帰る家が違うのだから。
それに月子ちゃんとして過ごすなんて、死んでもムリだ。賭けてもいい。
だけど、ここで一夜を明かして、生徒達が登校してくるまでここに…学校に居るなんて…あいつらに会うなんて、絶対にイヤだった。
「さっきも言ったけど、このままもとに戻らなかったとしても、教室には行ってよね」
「う、え、この状況で…?!」
「あなたと違ってこっちには今まで積み重ねてきた実績があるの。もしあなたが教室に行かないのなら、こっちは全裸で校内一周するから」
「……!!!」
月子ちゃんのあまりの傍若無人な発言に、ぼくは思わず言葉を失う。
心臓がまた痛い。
ドキドキじゃなくてズキズキと。
「と、とりあえずは…ッ 終電まで、待ってみる…」
やっとこ小さく吐き出した言葉に、月子ちゃんは「わかった」と答え頷いた。
こわい。
つよい。
こわい。
今まで接する機会が無かったから知らなかった。
女の子って、こわい。
見た目はぼくなのに、ものすごくこわい。
一種の運命共同体だと思っていた女の子は、決してぼくの味方ではなく。
これがぼくと月子ちゃんの、奇妙な共同生活の始まりだった。