反射的に視線を向けたあたし達ふたりは、その光景に思わず体が固まる。
完璧に、油断していた。
まさかこんなタイミングで家族の人が来るなんて思わなくて。
そしてそれは彼も同じだったのだろう、動揺で顔が青くなっている。
その体の主人であるあたしも驚くくらいの青さで。
「………」
「………」
「………」
沈黙が重くのしかかる。
本当は彼になっているあたしが気をきかせるべきなのだろうけれど、生憎そんな余裕がないのが現実だ。
ここは彼になんとかしてもらうしかない。
さっき少し話しただけで、残っていた体力をすべて失った。
もう声も出せない。
「あ、あの、おお、お邪魔して、ま…!」
ようやくなんとか、彼があたしの体で声を搾り出した。
彼のお母さんがふわりと、まるで花のように柔らかく、笑った。