でもせめて夢の中でだけなら…あたしだけの、お母さんだから。
誰にも迷惑かけないから、ちょっとだけ。
少しくらい、あの頃みたいに。
…甘えさせて。
『大丈夫? 何か、食べたいものある…?』
あの時あたしは、なんて答えたんだっけ…?
食欲なんか、ぜんぜんなくて。
『お薬飲むから、何かお腹に入れなくちゃ。何も食べてないでしょう…? 何がいい? 好きなものなんでも、買ってきてあげる』
あたしが、好きなもの…
『月子ちゃんの、好物だね! 月子ちゃん風邪ひいて食欲なくても、プリンなら食べれるもんね』
そうだね。我が家の病人食は、お母さんの手作りプリン。
あたしだけじゃない、朔夜も弦もみんな。
看護師のお母さんは調理師の免許も持っていて、料理がとても上手。
乳児食も離乳食も、全部お母さんが作ってた。
お母さんの手は魔法の手みたいだと、幼いときは本気でそう思った。
いつだって笑顔で強くて逞しくてお父さんをひっぱっていって。
だからお母さんの涙なんて、見たことなかった。
…あの日まで。