『この年頃の子供というのは、少し力加減がわからないものです。友達と接する内に、それを覚えていくものですから。ね、陽太さん、あなたが少し、大人になってみてあげてはどうかしら…?』
ぼくは、子供じゃないの?
守っては、もらえないの…?
『みんな友達思いの活気ある良いクラスですよ、いじめなんてありえません』
教師は笑っていた。
教科書もノートも体操服も、その場で棄てられた。
噛み合わない会話のいびつな結論だけが、机の上に残っていた。
日向兄さんはまだ言葉を発していたようだけれど、あまり覚えていない。
母さんが、心配そうにぼくを見た。
『…そう、なの…? 陽太…本当にいじめじゃ、ないのね…?』
母さんにとってはどっちが良いんだろう。
息子がいじめられてるなんて、やっぱり恥だろうか。
本当はきっと今日だって、来たくなかったってこと、知っている。
日向兄さんが母さんを連れてきてくれたんだってこと。
ぼくが頷けば、たとえ一時でもそのウソが、真実になるのなら。