「じゃあ前回の続きから。95ページを、誰か…そうだな、今日は27日だから出席番号の27番は…」
授業なんて、何年ぶりだろう。
ぎこちなく教科書をめくりながら、ノートの表紙に書かれた月子ちゃんの出席番号を見てぎくりとした。
27番。月子ちゃん…ぼく、だ。
いっきに脈が加速する。
いきなりのピンチだ。
ただ教科書を読むだけだとしても。
どうしよう。
手の平に汗が滲む。
どくどくと心臓が鳴る。
「…あー、と…明日は授業ないし、28番の吉田、95ページの文頭から読んで」
「はい」
名前を呼ばれるのを覚悟していたぼくは、思わず顔を上げて教壇に立つ先生を見た。
あっさりと、ぼくのピンチは回避された。
良かった、のか? ううん違う。
なぜだろうぼくは、ほぼ無意識に手をあげていた。
天井に向かってまっすぐと。
自分では理由も理屈もわからない。
普段のぼくが見たら信じられない行動だ。
それでも。
「──せん、せい…」
ぽつりと、声を漏らす。
教壇に立つ先生は、何も答えない。
まるで何も聞こえていないように。
「…先生…」
先生だけじゃない。
このクラスでは、誰ひとり。
ぼくを見ない。
存在を認めてもらえない。
そしてぼんやりと、ぼくが知る“学校”を、思い出していた。