驚いて振り返るその子と目が合って、ぼくはまくしたてるように勢いのままに言葉を発した。
「さ、さっき転んで、その、ちょっと記憶がぶっ飛んじゃって…! ぼっ、あたしの席って、ど、どこだっけ…!!」
月子ちゃんが聞いていたら、きっとこの上なく呆れた顔をするだろうな。
そしてきっと、怒るだろうな。
でも、いい。
いいんだ。
月子ちゃんに怒られるのも、少し慣れたから。
目の前の女の子の目に驚きと戸惑いが滲むのがわかる。
ムリもない。一番驚いてるのはぼく自身だ。
迷惑な行為だってわかってた。
教室内の視線が一集する。
じわりと汗が手の平に滲み、とった手も震えた。
祈るような気持ちの数秒後、女の子がおずおずと、口を開いた。
「…山田さんの、席っていうか…、いつも使ってる席なら、あそこだけど…」