ぼくが居た場所から少し歩いた所に校舎内への入り口があって、ぼくはさして迷わず校内へと辿り着けた。
おそるおそる、足を一歩踏み入れる。
反射的に唾液を呑み込んだ喉がごくりと鳴った。

踏み出した足が竦む。
心臓の音が、やけにうるさい。

廊下の先には、昼休みを終える生徒達の姿が目に付いた。
自意識過剰だとは分かっているけれど、みんながこっちを見て、笑ってる気がした。
あの日の、教室みたいに。

俯いたまま、次の一歩。
あまりに小さくて、ほとんど進まない。
固く握った拳に汗が滲む。

学校という場所に自ら足を踏み入れたのは、本当に久しぶりだった。
小学校以来だ。
日向兄さんが死んだ、あの時以来──

思い返す記憶に吐き気が伴って、思わず口元を押さえた。
でも、いつもより少し楽な気がした。

いつものぼくだったらとっくに逃げ出していた。
それをしないのはやっぱり、この体が月子ちゃんのだから。

月子ちゃんの体が、この地に足を着いて、立っていたからだ。