「…なに、ジョー。今日来ないって言ってなかった?」
「頼まれてたヤツ、持ってきてやったんだろ。お前が大至急って言ったんだろーが」
「…そうだっけ?」
「お邪魔なら帰るけど?」
「あー…」
昴流さんは小さく言って、ちらりとぼくの方を見る。
冷たい目。
それはどこか、獰猛な獣を思わせた。
それからふと、首もとの手が離れる。
「いーや。行く」
昴流さんが、くるりと体の向きを変えて、歩き出す。
ぼくはその背中を目だけで追った。
歩きながらポケットから棒付きのキャンディーを取り出し、あっという間に包装を解き口に放った。
意外にもそのゴミは無造作にポケットに詰め込んで。
なぜかそれが印象的だった。
場違いだとはわかっていたけれど。
昴流さんが、頭だけこちらを振り返る。
そこに先ほどまでの空気はなく、まるで別人のように見えた。
「またね、月子チャン」
ぼくは何も言えなかった。
彼の姿が見えなくなるまで、動けなかった。
ぎゅう、と手の中の赤いスカーフを握ったら、涙が、出た。