──当たり前だ。

このまま、されるがままなんて、あっていいわけない。
いいわけ、ないじゃないか。

だってこれは、この体は…

「あ、あぁの、八坂さん…! ちょっと、待」
「……呼び方、違うでしょ」

「え、あ、八坂先輩…?!」
「…ふざけてんの?」

え、どうして! 先輩って単語、ちょっと憧れていたのに!
って今は、それどころじゃなくて、呼び方、呼び方、苗字じゃないってことは…!

「昴流さん、待って…!」

ありったけの声で叫び、力いっぱい体を押す。
やっぱり腕が震えて、力が上手く出せない。感覚すらも拙い。
それでも、ありったけの力を、込める。振り絞る。

一瞬緩んだ昴流さんの腕の隙間から、なんとか抜け出た。
足にも上手く力が入らなくてつまずきそうになりながらも、昴流さんからわずかに距離を空けて向き直る。

ぎゅ、と胸元の赤いスカーフを強く握る。
今度は昴流さんは、追いかけてはこなかった。