「会ったと思うんだよねぇ…でもさ、月子チャンには見えなかったわけ。校内でぶつかってさぁ、顔上げたんだけど、俺だって気付かなかった?」
「…どういう意味…」
何言ってるんだこのひと、そう思った次の瞬間、は、と口を噤む。
心当たりが浮かんだから。
土曜日の補講の後、あたし達は入れ替わっていた。
つまりあたしじゃなくて、彼が、会ったのかもしれない。
このひとに。
もしそうだとしたら、いろんな意味で厄介だな。
「月子チャンはさ」
また、近づいてくる顔。
金色の髪が、目元に降ってくる。
目を逸らすことも伏せることもできず、ただそれを、黙って受け容れることしかできなくて。
ただぼんやりと、彼の髪色の方が綺麗だなと、思った。
「絶対、泣かないもんねぇ…?」
くしゃりと、耳元で結んだ髪が彼の手の平に握りつぶされて、結っていたゴムがいつの間にか彼の手の中にあった。
しゅるりと、赤いスカーフが解かれる。
あんなにきつく、結んだのに。
あんなに強く、願ったのに。
あんなに──