若干の距離を開けて、隣りにゆっくりと腰掛ける。
見計らったように、彼が体を起こしてあたしの顔を覗き込んだ。
視界の片隅に彼の姿が映る。
かろうじて制服という形をとっているものの、もはや指定の学ランが飾りに見える。
相変わらず彼の体には、あちこち光る装飾品だらけ。
きらきらと日の光に反射して、目に痛いくらい。
「…わざわざあたしに構うなんて、お暇なんですね」
「キミと違って授業受けに来てるわけじゃないからねぇ」
「…じゃあ」
何しに来てるんですか。
そう言おうとしたけどやめた。
そんなこと、興味ない。
聞きたくない。
だって聞かなくてもわかっているから。
「何しに来てるかって? …決まってんじゃん」
突然ぐい、と頭の後ろに乱暴に手が伸びてきた。
痛いと思うよりはやく、鼻先にはもう彼の顔があって。
「……ッ」
唇に生温かい感触。その瞬後、がり、と唇を噛まれた。
さっき自分で噛んだ場所と同じ場所。
そこにまた血が滲む。
それを彼は、ペロリと舐めた。
いつものキャンディーを舐めるみたいに。
わざと見せびらかす舌先に、赤い血。
彼は笑っていた。
それをどこか他人事みたいに見つめて。
「愉しいこと、しに」
彼はそういう役だ。
あたしを徹底的に、痛めつける役。
あの日みたいに。