「は、離して…! なんで、戻ってきたのよ…っ!」

腕の中の月子ちゃんが小さく暴れた。
後ろから強く押さえ込むと、簡単に自由を奪えた。

女の子は、かわいそうだ。
こんなに小さくて、弱い。

「あたしは、大丈夫だから…っ」

ぼくは月子ちゃんを抱いたまま首を振る。
力を込める腕さえ震えた。

必死に走ったせいで、パーカーのフードはもうとっくに脱げていた。
メガネには涙の跡がたくさんついて汚れている。

曝け出されたぼく自身は、一体どう映っているのだろう。

どくどくと荒い息に混じって心臓が脈打つ。
荒い息と一緒に血液まで噴出しそうだ。


それでもこの腕は、離せなかった。