ぼくにはどうやったって、あっち側の人に立ち向かう勇気なんて、ないのだから。
涙が頬を伝っていくつも零れた。
荒く吐き出す息に嗚咽が混じる。
苦しくて堪らなくて、思わず足を緩めた。
立ち止まり、肩でぜいぜいと息をする。
気持ち悪くて吐きそうだ。
「……っ、 っく、 う…」
右手が疼いた。
じくじくと、包帯の下。
自己嫌悪の刃、一時の現実逃避。
部屋の机の奥に閉まったカッターの刃が、脳裏にちらつく。
…もし、今、入れ替わったら。
殴られるとしても、痛いのはぼく?
それともやっぱり、月子ちゃん…?
…きっと。
きっとそれでも。
月子ちゃんは、逃げないんだろう。
助けてなんて、言わないんだろう。
そしてやっぱりぼくは、だれも、守れないんだろう。