こんなぼくに差し出せるもの。
カレーライス1杯分の対価。
ぼくという存在が生み出す価値。
…本当に?
ぼくは月子ちゃんが笑ってくれたことの方がずっと。
ずっとずっと、嬉しかった。
ずっとずっと、大きかった。
見上げた先のまるい月から、静かにしんしんと雪のように降る明かり。
彼女の小さな横顔を照らしている。
いつの間にかその横顔を見つめる自分が居た。
「…死んだ父親が…」
「…う、うん…」
ぼくは慌てて視線を空に戻す。
月子ちゃんはぼくの視線の先なんてきっとどうでも良いのだろうけれど、なんとなく、気付かれたくなくて。
「学校の、教師だったの。国語の教師で、文学少年だったんですって…」
「へぇ、そうなんだ…ぼくも、本ばっかり読んでるよ。それぐらいしかやることなくて。 あの部屋にあるの純文学ばっかりで…」
「でもあたしは、父が嫌いだった。…嫌いなまま、死んじゃったわ」