あたしの生活の中心は“家族”だ。
それ以外のものに意識を向ける余裕なんて、無い。
空にいくつ星が流れようと、隕石が降ってこようと、明日世界が滅びようと。
あたしには関係のないことだと思ってた。
「…――ッ、しまった、今何時?」
「え、えっと、夜の九時ちょっと前、かな…」
「もうそんな時間なの?!」
気が動転して今の今まですっかり忘れていた。
あたしとしたことが。
「…ちょっと、携帯貸してもらえるかしら」
「え、あ、うんいいけど…電話、するの…?」
「…家で弟達が待ってるのよ」
「えっと、そのままで…?」
「…………」
言いながら彼が差し出した携帯に映る自分の姿に、はたと思い出す。
そうだ、今のあたしは“鈴木陽太”であって、“山田月子”ではないんだ。
体も、声も。
「…あなた、あたしの代わりに電話してくれない?」
「え…ええええ! む、ムリだよ!」
「なんでやってみる前にムリってわかるのよ」
「だって、知らない人と話すなんて…!」
「あたしのフリして、隣りであたしが言ったこと伝えてもらえればいいから」
「むむむ、ムリムリムリ! ぼく、初対面の人と上手く話せないし、いつも不快にさせて怒らせちゃうだけだし…それに月子ちゃんのフリなんて絶対にムリだよ!!」
さっきまでボソボソとしかしゃべらなかったくせに、こんな時は大声出せるのねこのひきこもり。
ムリムリってあたしの顔で泣きべそかかれると心外この上ない。
いい加減イライラしてきた。
「せめてやってみてから泣き言は言いなさいよ」
「や、やらなくたってわかるよ…! ぼくは、何したって、何もしなくたって…! できそこないのクズなんだから……!」