◇ ◆ ◇
――食事が、苦手だった。
母さんがぼくを「日向」って呼ぶから。
父さんはぼくをもう見ないから。
晃良兄さんは何も言わないけれどきっと呆れてるに決まってる。
たったひとつの約束さえ守れなかったら、きっともっと。
日曜の昼食だけじゃない。
平日の、いつも学校に行くフリして母さんと食べる朝食も、1日部屋にひきこもっていたのに、学校での出来事をウソで固める夕食も。
苦手だった。
イヤだった。
イヤだったんだ、本当は。
月子ちゃんと入れ替わってしまうのは、そんな食事の際だった。
行かなくちゃと思う度に足が竦んで、またいつものぼくの逃げる心だけが逸る。
あの日以来手首の包帯はまだ綺麗なままだったけれど。
もう言い逃れできない。
こんな風になってしまったのは…月子ちゃんを巻き込んでいるのは、ぼくだ。
ぼくのこの、逃げ出す心が。
ぼくの弱さと狡さがすべての元凶なんだ。