ぼくは自転車を降りて来た道を引き返す。
温かな明かりの灯る家へ。

腕の中に瑠名ちゃんを抱きながら、月子ちゃんが迎えてくれる。
瑠名ちゃんはまだ眠いのか月子ちゃんの腕の中でうとうとしていた。

ふわふわの髪が少し月子ちゃんと似ていた。
かわいらしい女の子だった。

「ごはん出来たから、食べましょう。あなたのおかげで今日のカレーは豚肉多めなの。…食べれたらでいいから、一緒に」
「うん…うん、食べる…カレー、食べたい」

手の平のまめはもう痛くない。
潰れて血が滲んでいたけど、痛くない。
転んだってもうきっと、そんなに痛くない。

あの小さな部屋の隅でひとり、無力だった1日に自己嫌悪して、沈む夕暮れに泣くこともない。

離せない携帯電話を握りしめ、呼び出しのメールに怯えて、震えながら1日の終わりを迎える、今までの日々と今日とは違う。

今日は、違う。


空には綺麗な月が昇っていた。