ぼくの言葉に朔夜くんが、何も言わずに自転車の荷台に回ってくれて、ぼくも慌ててハンドルを握りなおす。
「…行くぞ」
「う、うん…!」
ペダルを踏み込むのと同時に、ぐん、と朔夜くんが自転車を押す。
ふらふらと進む車体に体も傾いた。
地面に引っ張られる。
大きく揺れる視界に恐怖を煽られる。
ぐ、とブレーキを構える手に力が篭った。
『――がんばれ』
声が、した。
遠い昔に聞いた声。
『ほら、いけるって。がんばれ、陽太』
背中を押す声。
兄さんの、声。
ふわりと、重力を失った体が宙に浮く感覚。
実際そんなわけはないんだけれど、そんな錯覚がした。
こわかった。
だけど声が、聞こえた。
懐かしい声が、聞こえたんだ。