それでも、こうしてぼくなんかに教えてくれている人の為に、やれるだけやらなくては。
ぼくはゆっくり目を開けて、目の前の自転車に再度跨る。
サドルの位置はちょうど良かった。
両手に滲んだ汗を拭ってハンドルを握る。
朔夜くんが自転車の荷台を押さえながら、後ろから声をかけた。
「スタンド上げるぞ。腕の力は抜いて、ひとまず踏み込んで、最初は地面に足着きながらでいいから片足ずつ漕いでみて」
「は、はい…っ」
ゆっくりと、自転車が前進する。
片足をペダルに置くも、バランスが取れずすぐに足を着いてしまう。
「自転車が傾いたら、傾いた側にハンドルを回すよう心がける」
「う、うん…っ」
もう一度、地面から足を離す。
ぐらぐらと手元が揺れる。
自転車ごと体も大きく揺れた。
「ブレーキ忘れんなよ、転びそうじゃなくてもブレーキは意識的にかけて覚えろ」
「わ、わかった…っ!」