「…とりあえず、あんた一回自転車から降りて。満、一回スタンド下げて、望はサドルの位置直してやんな」

「「りょーかい」」

言われるがままにぼくは一旦自転車から降り、ふたりに託す。
それから朔夜くんが、真正面からぼくを見据えて言い放つ。

「いいか、大抵のことは気持ち次第なんだ。できないって思ってる奴はできない。やるからには死ぬ気でやれよ」
「は、はい…っ」

朔夜くんのすごみに気圧されながらぼくはごくりと唾を呑みこむ。
なんだかとんでもないことがこれから始まる気がしてきた。

「兄ちゃん、“乗れる”って3回呟くといいんだぜ」
「ぼくも満もそれで乗れたもんね」

貴重なアドバイスを受けぼくはふたりにこくりと頷き、それからぎゅっと目を瞑って唱えた。

「ぼくは乗れるぼくは乗れるぼくはぜったいに自転車に乗れる…」

呟いてみたけど正直言って、まったく乗れる気がしない。

でもそれはぼく自身のせいなんだ。
そう思えないぼくに問題があるんだ。