あたし、こんな風に笑えたんだ。
ヘンなカンジだ。
「…で、何か分かったの、調べてみて」
「あ、あんまりたいしたことは分からなかったんだけど…仮にぼく達が階段から落ちた衝撃で入れ替わったとして、漫画や小説だとそういう場合、おんなじことすれば元に戻る場合があるみたい…」
「……また階段を転がれってこと…? あなたと?」
「…………まぁ、あくまで可能性のひとつですけど…」
「漫画や小説の話でしょう?」
「…この状況だって十分、非現実的、だと思う…」
なんだ、おどおどしてるだけかと思ったらちゃんと反論もできるんだ。
確かにその通りなので何も言わないけど。
「…や、やってみる…?」
「……そうね…」
顔色を伺うように問われ、半ば適当に相槌を打つ。
ひどく疲れた気持ちで、目の前の薄暗い階段を見上げた。
たかが十数段の階段だ。
もう一回くらい転がっても死にはしない気はするけれど。
「…今日はやめておく。身体的にも気持ち的にも、ものすごく疲れたし…」
「そ、そうだね…ぼくも身体中、痛いや…って、これ、月子ちゃんの身体だよね、ごめんね」
なんでこの人が謝るんだろう。
別にこの人が悪いわけでもなんでもないのに。
「案外寝て起きたらもとに戻ってるかもしれないし」
「そ、そんなものかな…」
「…さぁね。神様にでも訊いてみたら」
「ひどく気まぐれな、神様だね…」
溜め息と冗談に混じって落ちた言葉が冷たい階段にこだまする。
10月の夜は肌寒い。
少しだけ澄んだ空気が重たい身体に沁みた。
「神様、ね…」
言って見上げた先には、丸い月。
彼もあたしの視線を追うように、それを見上げた。
そういえば十月は神無月。
神様は、いない。