「じゃあどうやって朔夜に電話したの…? 共用のはあたしが持って行っちゃってたのに…」
「あ…、えっとね……お母さん、帰ってきてるんだ。あ、でも、心配かけちゃ悪いし、月子ちゃんのことは言わずに携帯だけ借りたから! 今は部屋で寝てるよ。夜勤明けだしね」

言いながら弦くんが、少しだけぎこちなく笑うのがわかった。
朔夜くんは最後まで聞かずにその場を離れてしまって、月子ちゃんの表情はよく見えなかった。
月子ちゃんはいつもと同じ声音で「そう」と一言だけ返していたけれど。

少しだけ空気の読めるようになったぼくは、月子ちゃん達姉弟とお母さんの僅かな距離感を感じた。

…自分だって人のこと言えないくせに。

しかもぼくの場合は距離どころか、ぼくという存在の可視化さえ認められていないのに。

だけど月子ちゃんが少し哀しそうに見えた気がして、とてもとても気にかかったけれどぼくにできることも口出す権利なんてないことを解っていたから…何も、言えなかった。

ぼくには何も。