「……不登校、てこと…?」
「あ、そう言って頂けると少し聞こえが良いですね…ただ単にひきこもりなだけなんですけど…」

自虐的にぽつりと言い、力なく笑う様子が生々しい。
彼本人がそう言うのなら、まぁそうなのだろう。

確かに彼の言動は少し挙動不審というか、やけに怯えた姿勢で話すひとだなとは感じていたけれど。

どうやらあたし達は、“いじめられっこ”同士、らしい。

「あの、山田、月子さん…、ですよね」
「…そう、だけど…どうして名前知ってるの」

「あの、すいません、学生証を見せてもらいました…」
「あれ、あたしの学生証って…」

と、条件反射で制服内のポケットを探ろうとしたけど、そういえばこの体はあたしのじゃないわけで。
彼があたしの学生証を見たってことは…

「ちょっと、あなた何ひとの体勝手に調べてるのよ」
「う、ご、ごめんなさいだって…! ぼくもテンパってて…! 状況を確認しようと必死だったんです…!」

ちょっと睨んだだけなのに、彼がおおげさに怯えるものだから調子が狂う。
あたしは感情表現や表情が豊かではないと自覚があるだけに、違和感をひしひしと感じた。

「まぁ、いいけど…それよりこの後どうする?」
「あの、ぼく、山田さんが気を失ってる間に携帯でいろいろ調べてみたんだけど…」

「意外と呑気ね…とりあえずその“山田さん”てやめて欲しい。苗字で呼ばれるの…あまり好きじゃない」
「え、や、何か手がかりとか情報ないかと思って…えと、苗字じゃなくて名前の方がいいってこと…?」

「…名前でもあまり良くは無いんだけど…まぁ、任せるわ。そんなこだわりがあるわけでもないし」
「……じゃ、じゃあ、月子ちゃん、て呼んでいい…?」

なぜかもじもじしながら言った彼の緊張がこちらにまで伝わってくる。
なに、この空気。

「……好きにして」
「う、うん…!」

何故かいたたまれなくなって、思わず顔を背けた。

あたしはそんな顔で笑わない。
目の前に居るのは姿形は“あたし”なのに、まるであたしではないみたいだった。