「ははっ……よく言われるよ」


正直な気持ちとしては怒ってやりたいとこだけど、たかが名前ごときでキレて、この場の雰囲気を悪くしてはいけない。


なんとか言葉を飲み込んで、沸々とわきあがりつつあった怒りを、無理やり心の底に押し沈めた。


それでも悲しい気持ちはなくならない。


俺は、別の話題で盛り上がりはじめる友達の中には入らず、ひとり窓の外の桜をぼんやりと眺めた。


あー、小さい頃はいちいち「そんなこと言うな!」って言い返しては、家で泣いてたっけなー。


クラスの子に変な名前って言われたーって泣き喚く俺に、お母さんは決まってこう言った。



『みんな、律の名前がうらやましいのよ』



うらやましいから、そうやって意地悪言っちゃうの。だから許してあげて、と笑いながらなだめてくれた。


それで泣き止んで落ち着いた俺を、優しく抱きしめるんだ。



『いつか必ず、律の名前を素敵だって言ってくれる人が現れるわ』