だけど、あたしは知っている。
ひーも、
田代先輩が好きだ。
あたしだって、一応ひーの親友。
ひーの様子を見てたらわかった。
「応援するね」と言ったひーは、すごく悲しい笑顔を浮かべていた……。
ひーと同じ人を好きになっちゃうなんて、残酷にもほどがある。
あたしなんかじゃ、ひーに勝つことなんてできない。
きっと、ひーが先輩に告白すれば絶対OKがもらえるはず。
美男美女で、誰もが羨むベストカップルになるに違いない。
だけど、そうならないのは
「頑張ってね、はる!」
ひーが優しすぎるから。
そんな、お人好しなとこも嫌い。
「あ、はる。口にチョコレートついてるよ」
「え、うそ」
立ち寄ったコンビニで買ったソフトクリーム。
ひーはバニラで、あたしはチョコ。
ひーがあたしの顔を指差して言ったので、慌てて口をこする。
「取れた?」
「うん、バッチリ。
ってか、なんかはる可愛い!子供みたーい」
ほめられてんだか、けなされてんだかわからない。
だけど、可愛い子に「可愛い」と言われても、正直あまり良い気分にはならない。
ひーの場合、自分がモテることに気付いてないから仕方ないんだけど、複雑だ。
思わずため息をつくけど、ひーは「どうしたの?」と聞くだけで、あたしの気持ちにはこれっぽっちも気付いてくれていない。
でも、親友が自分を嫌ってるなんてめったにない話。
鈍感なひーじゃなくても、きっと予想なんてできないだろう。
「ため息つくと、幸せ逃げちゃうよ……?」
あたしの顔色をうかがうように、ひーはおずおずと言う。
だからあたしは、少し冗談めいた言葉で返した。
「幸せ逃げてるからため息ついてんだよ」
苦笑しながら言うと、ひーはすごく悲しそうな表情を浮かべた。
「ごめんね……」
一瞬ドキッとした。
何でひーが謝んの?
ひーは、気付いてんの……?
「ひとり?」
「……うん」
「お友達は?」
「いない……」
「だったら、ひーちゃんがお友達になってあげる!
あなたお名前は?」
「……はるひ」
「じゃあ、はるちゃんだね!よろしくね!
一緒に遊ぼう、はるちゃん!」
「……うん、ありがと。ひーちゃん」
「もうすぐ夏休みだね、はる!」
あたしの隣を歩きながら、ひーが嬉しそうに言った。
家も同じ方向だから、登下校も一緒。
ひーと一緒にいるのはしんどいけど、ひとりも嫌だ。
だからあたしは、ひーを利用している。
ホントに最低だ。
「そうだね」と返すと、ひーはあたしの腕に自分の腕を絡める。
「いろんなとこ遊びに行こうよ!海とか、プールとか!」
「……うん」
無理、ひーと遊びに行くなんて。
でも、はっきり断れないのは何でだろう?
ひーの嬉しそうな顔を見てたら、何も言えなくなってしまう。
ひーが嫌い。
なんて、口が裂けても言えない。
言ったら、みんなを敵に回すことになる。
ひーはみんなの人気者だから。
あたしは誰にも相談できずに、ただ、この複雑な気持ちを抱え込むしかない。
みんなを知らない間に味方につけているひーが憎たらしくて、
羨ましかった。
すべてを受け入れてくれる人が、ひとりでいいから欲しい。
親友を憎むあたしが、こんなことを願うなんていけないのはわかってるけど。
それぐらい、許してくれたっていいじゃん。
ひーは、あたしがないものをいっぱい持ってるんだから。
「裕菜おはよー!あ、はるひも」
とってつけたような、クラスメートのあたしに対する挨拶。
ひーに挨拶するついでに、あたしもいたから、みたいな。
朝からイライラさせないでほしい。
もう……何なの。
なんだか悔しくて、泣きたくなってくる。
1限目サボっちゃおうかな。
バッグを置いて、あたしは一歩教室を出た。
すると、そんなあたしを引き止めるように。
「伊沢おはよー!」
びっくりして、その元気な声がした方を振り向いてみると、
クラスメートの高村律(タカムラ リツ)があたしに笑いかけていた。
隣にいるひーじゃなくて、
あたしをまっすぐ見てる高村くん。
「どこ行くの、伊沢?」
高校生にしてはあどけない笑顔を浮かべながら、高村くんはあたしに近づいてきた。
あんまりマジマジと見たことなかったからわかんなかったけど、
綺麗な顔をしてる。
田代先輩に並ぶぐらい。
そういえば、高村くんは確かうちのクラスのミスターコンの選手に選ばれてたっけ。
ひーも高村くんも、選ばれるだけのことはある。
あたしと違って、
まわりがキラキラ輝いて見えるもん。
「伊沢?」
高村くんの声で、あたしはやっと我に返った。
「ちょっと、具合悪いから保健室に……」
「え!? はる、具合悪いの!?」
あたしの言葉に声をあげたのは、高村くんじゃなくてひーだった。
「大丈夫!? そういえば、顔色悪いよ!私付き添ってあげる!」
「大丈夫、ひとりで行けるから」
「でもっ!」
何でわかってくれないの、ひー。
もうすぐで怒鳴りそうになったあたしを止めたのは、高村くんだった。
「中里、俺も保健室に用あるからついでに伊沢つれてくよ。だから、心配すんな」
「高村くん……」
「ほら、授業始まるぜ」
時計をみると、始業まで1分を切っていた。