「それから紙袋。それについていた指紋だけどね、それも松下野々香のもの。紙袋の中からはなぜか覚せい剤が微量に検出されたの。密封されていたケースからこぼれたわけはないから、別物の可能性もあった。だけど・・・」
そう言いながら、新たな鑑定書と書かれた紙切れを放り投げるように置く。

「ケースの中の覚せい剤の成分とまったく同じものだという鑑定結果よ。つまり、あの紙袋を持っていた人物が覚せい剤を触ったということになる」

「つまり、松下野々香が犯人だと証明されたんですか?」
うれしさがこみあげるのを隠そうともせず雪乃は言った。

「甘いわ。これは単なる状況証拠なのよ。言わば『松下野々香が覚せい剤を持っていたかもしれない』という可能性が出てきただけ。だってそうでしょう?あのケースを持っていたのは誰?冷蔵庫に入れていたのは誰?」

「それは」

「そう、あなたよ。あなたが持っていたのよ。松下に渡されたという証拠はないわ。渡されるのを誰が見ていた?ううん、誰もみていないの。あと5日の間に松下野々香がたとえ見つかったとしても、彼女が素直に自白しないかぎりはあなたの無実はないと思いなさい」