わたしにイーッとバイキン星人みたいな顔を見せたあと、田岡は、教室を出て行った。

少し下げられて、腰に引っかかっているズボンの口のところで、学校指定のものとはちがうベルトが、光っていた。


その後ろ姿が完全に見えなくなっても、アキに話しかけられても、授業がはじまっても。

わたしはなんだか上の空で、心ここにあらずだった。


クリスマス、朝めざめて、枕元にプレゼントがなかったみ たいな。

あったとしても、ワクワクして開けたら、中身からっぽ、みたいな。そんな気持ちだった。


・・・ちがうのだろうか。

田岡は、『ジュウエンムイチ』じゃないのだろうか。

ジュウエンムイチなんてペンネーム、ほかに考えつくひとがいるのだろうか。でも。


よくよく考えてみれば、全国のひとが投稿するラジオ番組で、自分とおなじ塾に通っている男子の悩みが読まれ、それを偶然わたしが聞くなんてことのほうが、 ありえないことのような気がしてきた。