ゆううつな気分になって、ふと視線を、床に落とす。

クシャクシャに置かれた、学校のサブバックが見えた。


田岡のだ。すぐにわかる。

だって、なんでそれを選んだのってかんじの、変な缶バッチがついているから。

棒人間が、ベッドから跳ね起きる絵が描いてあって、その上に、文字。


『趣味は早起きです』


・・・ああ、そう。そりゃすばらしいね。


女子は家で、塾用のカバンに変えてくるけれど、田岡を含め、男子は、わざわざそういうことはしない。

そのまま、学校のサブバックを持ってくるのだ。


マジックで書かれた田岡の名前は、わたしと一緒で、はげていた。

『田岡広大』が、うすくなって、『十円ム一』みたいになっている。

ジュウエンムイチ。

十円もない、無一文の人みたい。

貧乏そうな名前だ。ニハシノコのほうが、まだマシ。


「フィニーッシュ!!」


大きな声でそう言って、田岡がシャーペンを置いた。

ハッと、カバンから目線をはがす。わたしのプリントは、まだ、あと二問残っている。